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人工授精
真珠養殖は真珠母貝を育てることから始まります。琉球真珠では、真珠母貝を人工採苗によってつくります。
優れた母貝をつくるために元気で健康な貝を選びます。
クロチョウガイ、シロチョウガイは雌雄異体で、生殖巣の成熟している雌雄の母貝を飼育室の水槽内に入れます。人為的に温度変化を与えると、母貝は雌雄それぞれが精子と卵子を放出します。通常は雄貝が放精した後から雌貝の放卵がはじまり、受精が行われます。
受精卵の大きさは約50ミクロン(0.05mm)で、受精すると水槽の底に沈殿していきます。
受精後すぐに、受精卵は細胞分裂を始めます。球形の受精卵は2細胞、4細胞と細胞分裂を繰り返し、その形を変えていきます。
7~8時間ほどでトロコフォア幼生となり、水槽の底から回転運動をしながら浮上します。西表島船浮養殖場の幼生飼育室。人工授精から幼生飼育までの作業をこの採苗施設で行います。
クロチョウガイの受精卵
クロチョウガイのトロコフォア幼生
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幼生飼育
受精後約20時間でD字状の貝殻をもつD型幼生になります。初期D型幼生の大きさは約85ミクロン(0.085mm)で、水槽内を活発に泳ぎまわり餌を食べ始めます。
餌として投与されるのは微細藻類の植物プランクトンで、餌料培養室で大量に作られます。
飼育期間中は飼育室を暗くします。また、飼育水は濾過(ろか)機で処理されたきれいな海水を用い、水温を25~27℃で一定に保ちます。
7~10日後にはD型幼生の殻頂部(ちょうつがい)が突出してハマグリ型になると、アンボ期幼生と呼ばれるようになります。大きさは130ミクロン(0.13mm)~150ミクロン(0.15mm)です。
18~20日ほどで約230ミクロン(0.23mm)にまで成長すると、一対の眼点が生じ、さらに足が形成されます。この時期は成熟期幼生と呼ばれ、足を使ってほふく運動をしたり泳いだりします。
受精後30~35日が経過すると、鰓(えら)が形成され、初期付着稚貝となります。コレクター(付着器)や水槽壁などに付着するようになり、付着後は稚貝の成長が早くなります。クロチョウガイのD型幼生
飼料培養室
成熟期幼生。黒い点が眼点です。
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沖出し
受精後60~70日で付着稚貝が2~3㎜に成長すると、飼育室の水槽から目の細かいカゴへ収容し、養殖いかだに吊り下げて自然の海へ沖出しします。
初期付着稚貝。大小二つの貝があります。大きいものは1400ミクロン(1.4mm)、小さいものは520ミクロン(0.52mm)です。同じように飼育しても個体によって大きな差が出ます。
沖出しカゴ
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稚貝育成
沖出しした稚貝は、自然海のプランクトンを食べながら成長します。
稚貝はお互いにくっつきあい団子状になる性質があります。そのため定期的に切り離す作業を行うとともに、稚貝の成長を妨げる付着物をひとつひとつ手作業で取り除いていきます。
手入れされた稚貝は成長に合わせて、沖出しカゴからちょうちんカゴ、プラスチックカゴへと順に網目の大きいカゴへ移されます。稚貝の掃除と選別
選別した稚貝をフタ付きのプラスチックカゴへ移します。
稚貝の入ったプラスチックカゴをさらにネットの中に入れます。
プラスチックカゴが入ったネットを海中に吊り下げ、稚貝を海に戻します。
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母貝養殖
沖出しから1年後、稚貝はクロチョウガイで約5㎝、シロチョウガイで約9cmの大きさになると幼貝用の養殖ネットに移します。
さらに2年後、クロチョウガイで約10㎝、シロチョウガイで約15cmまでに成長すると母貝用の養殖ネットに移します。 その間、母貝の成長を促すために、フジツボやカキといった小型生物や海藻類などの付着物を取り除く作業を繰り返し行います。母貝の入った養殖ネット
母貝の洗浄作業
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仕立て
母貝が挿核手術の可能な大きさにまで成長すると、仕立てカゴの中に貝を密着させて並べ、養殖いかだに吊り下げます。これは母貝の生理活動を抑制し、挿核手術によるショックをやわらげるためです。仕立ては、手術後の母貝のへい死率や脱核率、さらには真珠の品質にまで大きく影響する重要な作業です。
仕立て作業は石垣島川平養殖場と西表島船浮養殖場で行います。シロチョウガイの仕立て
仕立てカゴを海に戻します。
挿核手術に入る前に、貝の口を開けたままにしておく「栓さし」という作業を行います。母貝は、仕立てカゴの中から海水を満たした水槽に開放すると、呼吸のために口を開けます。そこに開口器を入れ、くさび形の栓を差し込みます。
シロチョウガイの栓さし
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挿核手術
真珠養殖でもっとも重要な作業が、外套膜のピース(組織片)と核を移植する手術、つまり挿核手術です。貝の外套膜は真珠質を分泌し、貝殻を作る役目をします。
まず、若い母貝の外套膜から約3㎜のピースを切り取ります。このピースが真珠の色の決め手となります。クロチョウガイのピース切り取り
ピース切り
挿核用の手術器具
次に受精後3年から4年を経た母貝の生殖巣に切れ込みを入れ、核を挿入します。核は、アメリカの淡水産ドブガイの貝殻を球形に加工したものを使用します。 続いて生殖巣にピースを送るように挿入して、核と密着させます。
生殖巣の大きさに合わせてサイズの異なる核を使います。
クロチョウガイの挿核
挿核手術を終えたクロチョウガイ
真珠の出来を大きく左右するこの挿核手術には、高度な技術が要求されます。 手術が成功すれば、生殖巣の中でピースが核の周りで増殖し、真珠袋を形成します。この真珠袋が真珠質を分泌しながら真珠を育てます。
黒蝶真珠を切断すると、白い核の周りに真珠層が巻かれているのが分かります。
淡水産イシガイ科ドブガイ
貝殻の厚い部分を短冊形に切断します。
さいころ形に切り揃えます。
研磨機で丸く加工し、白くて真円のものを選別します。
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養生
核入れ手術を終えた母貝は養生ネットに入れられ、再び海へと戻ります。
約20日間、おだやかな海の養殖いかだに吊り下げられ、体力の回復を待ちます。挿核後の手術貝を海に戻します。
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脱核調査
脱核調査では、手術貝に核が留まっているかどうかを調べます。順調に貝の生殖巣に核が留まっていれば本活(ほんいけ)養殖へ、核が抜け落ちた脱核貝は再手術のために養生されます。なお、核が留まっている貝は「クロガイ(玄貝)」と呼ばれます。
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本活養殖
生育環境が良好な海に核留貝(クロガイ)を吊り下げながら、2年養殖を行います。これを本活(ほんいけ)養殖と呼びます。
この期間も貝の健康状態を維持するために、定期的に付着物の除去作業(貝掃除)を繰り返します。貝掃除には水圧を利用した機械が導入されています。貝掃除
カコボラなどの肉食性巻貝も母貝にとっては害敵です。
海中の養殖ネット
養殖スタッフの細やかな愛情を受けながら、母貝はゆっくり長い年月をかけながら真珠を育てていきます。
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浜揚げ
いよいよ真珠の収穫、浜揚げです。挿核手術から2年養殖した母貝を陸揚げし、挿核の時と同じように開口器でひとつひとつ貝を開けながら、切開した生殖巣から真珠を取り出します。
琉球真珠の黒蝶真珠と白蝶真珠は、人工採苗から最短でも5年の歳月を経てはじめて誕生します。クロチョウガイから真珠を取り出します。
わかりやすく貝を割ってみました。生殖巣にメスを入れると、美しい真珠が姿をあらわします。
白蝶真珠と黒蝶真珠
クロチョウガイに寄生するクロチョウカクレエビ。オレンジ色のかわいらしい水玉模様をしています。
浜揚げを終えた貝は、状態が良ければ、もう一度真珠を巻かせるために挿核する場合があります。これを直入(ちょくにゅう)と呼びます。
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選別
浜揚げした真珠は、品質別、サイズ別、色別、さらに用途別などに選別されます。
琉球真珠では、真珠科学研究所認定のパールマスター、パールインストラクターの資格を持つ専門スタッフが選別作業に従事しています。真珠に関する高度な知識を持つスタッフの、確かな選別眼によって厳選された真珠のみが、製品加工へまわされます。 -
製品
厳選された真珠は、熟練した加工専門のスタッフの手により、ネックレス、ペンダント、リング、ブローチなどの真珠製品に仕上げられます。
ネックレスの連組み
ドリルを使って真珠に穴をあける加工作業
店頭に並んだ真珠製品
八重山の豊かな自然と真珠母貝への細やかな愛情によって、ひと粒ひと粒大切に育てられる黒蝶真珠、そして白蝶真珠は、上質な輝きを放つ華麗な宝飾品としてお客様のもとへ届けられます。
「私たちが心をこめて育てた真珠との
すてきな出会いをお待ちしています。」
真珠の核は何からできているの?